今日の一曲(その7)
●カーティス・メイフィールド/「ムーヴ・オン・アップ」
(CD:Curtis Mayfield/『Curtis』[ソウル、R&B])
ソウルを聴き始めた頃、70年代ソウルは興味が無かった。何故ならそこにはオーティス・レディングがいなかったから。 わーかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ……。
「ニュー・ソウル」という言葉がある。1970年代の前半に流行った音楽で、当時のアメリカの世相を反映した(公民権運動の挫折、ベトナム戦争の泥沼化など)知的でクールなサウンドであり、それでいてソウル特有の躍動感のある楽曲のことを指している。
マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン』やスティーヴィー・ワンダーの『インナーヴィジョンズ』、ダニー・ハサウェイの『ライヴ』、とCDの名前を挙げれば、「ああ、あれね」と思う人もいるだろう。
流行ったのは70年代だから全然「ニュー」ではないんだけど、今でもその影響力は大きい。70年代中頃、ディスコが大流行して以後、ソウルというジャンルそのものが消えてしまうからである。いわばソウル・ミュージック最後の輝きってこともあってニュー・ソウルという言葉が未だに生き続けているのだ(このあと流行るブラック・ミュージックはブラコンとかR&Bはたまたヒップホップと呼ばれることになる)。
そんなこんなで今、巷ではこ洒落た意味も含めニュー・ソウルがキているらしい。もちろん私だってソウルは大好きだからニュー・ソウルも好きだが、こうまで持て囃されると、アマノジャクに反発してみたくもなる。
そりゃ女の子を口説く時、マーヴィン・ゲイの曲でも掛かってたら上手くいくかもしれないけど、マディ・ウォーターズじゃ女も帰ってしまうだろう。だがしかし、音楽として考えた場合、どちらも優れているのだから、私としては両方に熱い眼差しを向けていたいのだ。いや、別に女の子といる時にマディを聴くってことじゃなくてね。
で、カーティス・メイフィールドである。この人もニュー・ソウルの立役者ということになってはいるのだけれど、世界中のミュージシャンにリスペクトされているにも関わらず、ここ日本では恐ろしく人気がない。
今月号の「レコード・コレクターズ」(再発専門の音楽雑誌)が手元にあり、ちょうど音楽評論家の投票による「ソウル・ベスト100」という特集をしている。それを見るとスティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイの前述のアルバムが皆、ベスト10に入っているのに、カーティス・メイフィールドといえばやっと17位にサントラの『スーパーフライ』が入っている。評論家の投票からしてこれだ、一般人だったらもっと評価が低いだろう(そもそもカーティス知らないし)。
確かにニュー・ソウルをオシャレなアクセサリーのように捕らえたとしたら、カーティスの朴訥とした風貌はいささか具合が悪いだろう。ボーカルだって上手いんだか何だかよくわからないしね。しかし気をしずめてちゃんと音楽と向かい合えれば、カーティスにしか表現出来ない世界があるということに気付き、感動する筈である。
そんな彼の独自な音楽性は有名な「スーパーフライ」でももちろん味わえるが、今日は私の一番好きな曲を紹介しよう。
この曲「ムーヴ・オン・アップ」では、頭からゴージャスに、そして艶っぽくブラス・セクションが鳴り響く。なんかニュー・ソウルというよりは日本の歌謡曲みたいで、クレイジー・ケンバンドあたりを彷彿とさせてしまう。
しかし歌うのはもちろんクレイジー・ケンではなく、カーティス・メイフィールドのフニャフニャしたボーカルで、これがリズミカルなバックと一体になって疾走する。そしてサックスのソロ、これが素晴らしい。コンガがズンドコリズムを叩きだす間隙を縫ってクールに、切なく歌い上げていく。
このようにカーティス・メイフィールドの世界とは、ボーカルやリズムがそれぞれ単独に自己主張するのではなく、総てが一体となってカーティスの表現に溶け込んでいるのである。それがニュー・ソウルってことなのさ、と言われればそれまでだけど。そう考えたら、弱いとされている彼のボーカルも無くてはならない個性のように思えてくるのだ。
「ムーヴ・オン・アップ」は当時イギリスのモッズの間で人気があったそうで、後にザ・ジャムのポール・ウェラーがカバーしている。こんな曲をカバーするなんて、当時のモッズって本当にオシャレだったんだよなぁ。日本の見せかけだけのエセモッズどもにも見習ってもらいたいもんである。
★本文では熱くなってしまったが、よくよく考えてみればカーティス・メイフィールドという人も地味な存在ではある。スティーヴィー・ワンダーみたく宇宙的な大ボラが吹けるわけでもないし、マーヴィン・ゲイのようなエロ一発があるわけでもない。曲やアレンジも『スーパーフライ』で聴いたことがあるような似た曲調ばかり。
でも、飽きないんだよなぁ、これが。一度カーティスの魅力に開眼してしまうと、むしろそのカーティスらしさを積極的に求めるようになる。このCD『カーティス』でもそんなカーティスらしい演奏がいっぱい詰まっている。
カーティス・メイフィールドは活躍した時代からニュー・ソウルだけの人と思われがちだが、彼のキャリアは古く、その時代その時代で優れた曲をつくっている。
まず1958年にはジェリー・バトラー&ジ・インプレッションズからドゥーワップ後期の名曲「フォー・ユア・プレシャス・ラヴ」(これはカーティスの曲ではないが)でデビュー、やがてインプレッションズのリーダーになり、60年代中頃からはノーザン・ソウル(アメリカ北部の洗練されたソウル。
本当はイギリスの北部で流行ったってことらしいんだけど、まぁどっちでもいいだろう)の傑作、「ピープル・ゲット・レディ」、「ウィアー・ア・ウィナー」などを続々と生み出してゆく。そして70年代のソロ、ニュー・ソウル運動へと繋がっていくわけだ。
カーティス自身はニュー・ソウルのイメージから社会派という目で見られ、確かにそういう面もあるのだが、社会問題に積極的に取り組むというよりは、社会状況を客観的に見つめるクールな視点が常にあるのだ。そこには時代を鋭く読むプロデューサーとしての側面が顔を出す。
実際カーティスにはスティーヴィー・ワンダーと並んで他人をプロデュースした名曲がいっぱいあって、「カーティス本人より他人に作って歌わせた曲の方が出来がいい」なんて悪口を言う人もいるくらいだ。
そんなカーティスも晩年、大きな事件に巻き込まれることになる。1990年、ステージの照明器具が倒れてカーティスを直撃、半身不随になってしまうのだ。これは本人に全く責任が無いだけあって悲しい出来事だった。
再起不能などともいわれたが、1996年、ベッドで寝たきりのまま歌った奇跡のカムバック作『ニュー・ワールド・オーダー』を発表。この賛美歌のようなアルバムを出した後、21世紀を待たずに1999年、永眠する。
私がカーティスを本当に好きになったのは彼が死んでからで、考えたらそれも残酷な話だ。せめてライヴを見に行きたかったと思うが、幸い彼の残した素晴らしい録音がいっぱいある、今日もそれを聴くことにしよう。
◎今日のもう一曲◎
●インプレッションズ/「ウィアー・ア・ウィナー」
(CD:『ベスト・オブ・カーティスメイフィールド&ジ・インプレッションズ』[ソウル、R&B]※原題『The Imressions-Soul Classics』)
この曲はジャッキー・ウィルソンの「ハイヤー・アンド・ハイヤー」と並んでノーザン・ソウルの私の好きな曲の一つだ。この時期のノーザン・ソウルは公民権運動の高まりを受けて、ひたすら高揚していくのが特徴で、この曲にもそれがよく出ている。カーティス独特のリズムも聴きもので、思わず立ち上がって踊り出したくなるようなノリがある。
もっともこの曲がヒットした直後、マーティン・ルーサー・キングが暗殺されて、暗い70年代へと突入してゆくのだけれど。それが今やオバマが大統領になろうという勢いなんだからなぁ。「時代は変わる」、か。
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